ハンス J. ウェグナーは、日本でも有名なデンマークを代表するデザイナー。
生涯において500脚以上の椅子をデザインし「椅子の神様」という異名をもつ人物です。
この記事では、ハンス J. ウェグナーの成り立ちやデザインの特徴、代表作について詳しく解説します。
目次
Yチェアで知られるハンス J. ウェグナーとは?
「ハンス J. ウェグナー」は北欧モダンを代表する家具デザイナーのひとりです。
1914年4月2日にユトランド半島南部のトナーで生まれました。
木工職人としての優れた技術力と感性を活かし、生涯において500脚種類以上もの椅子を手掛けています。
「Yチェア」の愛称で親しまれている「CH24」は、日本でもテレビや雑誌に登場。北欧家具好きでなくとも目にしたことがある人は多いはず。
生みだされた作品たちは、20世紀の北欧デザイン界に大きな影響を与え、現在も世界中で愛され続けています。
若干17歳で木工マイスターに合格
ウェグナーは、17歳という若さで「木工マイスター」の試験に合格しています。
家具工房をもつことを夢見て、若い頃から努力を続けてきた証といえるでしょう。
ウェグナーは義務教育を終えたあと、家具工房に弟子入りし、必要な知識を身に付けました。
木工マイスターの資格を取得した後も、家具職人としての経験を重ねています。
美術工芸学校での経験が才能を開花させる
短期の家具製作コースを得て、美術工芸学校に進学したウェグナー。
コーア・クリントの教え子「オルラ・モルゴー・ニールセン」が教授として、デザイン方法論の教育をおこなっていました。
ウェグナーはリ・デザインや数学的アプローチについて学び、デザイナーとしての才能を開花させます。
当時、美術工芸学校は工芸博物館の敷地内にあり、世界各国から集められた椅子が収められていました。
建設事務所で実務経験を積む
美術工芸学校にて優秀な成績を修めたウェグナーでしたが、3年目で自主退学します。
「アルネ・ヤコブセン」と、デンマークの建築家「エリック・モラー」の建設事務所に勤務し、実務経験を積みました。
初めての仕事は「ニューボー図書館」に向けた家具のデザインでした。
閲覧室用に「ウィンザーチェア」を手掛けています。
ウェグナーのデザインに対する姿勢
生涯において500脚以上もの椅子を生みだしたウェグナー。
ここからは、デザインの傾向や軸となる考え方について解説します。
家具の本質を追求したデザイン
ウェグナーが生みだす作品は、ミニマルでありながらも温もりを感じるのが特徴です。
木工職人としての木材に対する知識や技術の高さはもちろんのこと「美しいだけでなく使う人に寄り添う」という家具の本質がベースとなっています。
試行錯誤しながら完成した作品は、どれも包容力を感じる仕上がりです。
クラフトマンシップを重視
クリント派であったウェグナーは、伝統的なクラフトマンシップを大切にしました。
現場の職人と対話を重ねながら、アイデアを具現化するスタイルを貫いたのです。
より良いものを作るためにコツコツ努力を続ける姿勢が、世界に認められるデザインの誕生へとつながったのでしょう。
ウェグナーの偉業
ウェグナーはさまざまな場所に向けて作品を提案したり、自身が推進する家具製作のプロジェクトに取り組んだりしました。
ここからは、彼の功績をいくつかご紹介します。
オーフス市庁舎の家具をデザイン
デンマークの第二の都市にある「オーフス市庁舎」は、アルネ・ヤコブセンの建築の代表作です。
その大きなプロジェクトで、ウェグナーは椅子や事務机、本棚、ファイル用のキャビネットなど、家具デザインを担当しました。
既に世間から評価を得ていたヤコブセンのもとでの挑戦は、デザイナー人生においてかけがえのない財産になったことでしょう。
PPモブラーに家具の製造ライセンスを付与
1953年に設立した家具工房「PPモブラー」に、ウェグナーは1970年代からデザインした一連の家具の製造ライセンスを付与しています。
PPモブラーはクラフトマンシップを重視しながらも、機械を使った加工技術を適度に導入しており、ウェグナーの価値観と一致していました。
1970年代の半ばにはサレスコのメンバーの一人「アンドレアス・ツック」から一連のテーブルシリーズ、「フリッツ・ハンセン」からチャイニーズチェア、工房「ヨハネス・ハンセン」からザ・チェアなど、名作となる作品を引き継ぐことに。
ウェグナーは小さなアトリエが世間から広く認知されるきっかけを作ったのです。
ウェグナー博物館に作品を提供
1995年に故郷であるトナーに博物館が設立します。
古い給水塔を修繕し、ウェグナー自身が作品を提供しました。
CH24(Yチェア)を筆頭に名作の数々を一度に堪能できます。
最上階は展望台となっており、トナーの街並みを見渡せます。
風景はもちろんのこと、ぐるりと並べられたザ・チェアに圧倒されるはず。
北欧家具ファンなら、いつかは訪れたい場所の一つです。
ハンス J. ウェグナーが手掛けた有名な北欧家具
シンプルな中に漂う柔らかさが印象的なウェグナーの作品。
彼のデザインのマスターピースとなるものも含め、特に有名な家具を7つご紹介します。
Yチェアでお馴染みのCH24
「Yチェア」との愛称でも親しまれる「CH24」は、ウェグナーを象徴する名作です。
1949年に初めて「カール・ハンセン&サン」に向けてデザインされ、発表と同時に反響を呼びました。
Y字のような背もたれが、フォルム全体に柔らかさをプラス。
シンプルで優しい佇まいはどんな空間にも馴染むので、日本でも人気の高い北欧家具です。
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ペーパーコードが軽快なCH25
「CH25」は1950年に発表されたイージーチェア。
ウェグナーが「カール・ハンセン&サン」の社長宅に滞在している間に生みだした、最初の椅子シリーズの一つです。
ペーパーコードを使用した座面と背もたれが特徴的。
美しい編み目に、職人の技術が光ります。
またデザインだけでなく、耐久性に優れているのも嬉しいポイント。
低めに設定された座面は軽やかな印象で、オープンキッチンやリビング、バルコニーなど、ゆったりくつろぎたいスペースに最適です。
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有機的なアームに個性を感じるCH22
緩やかなカーブを描く、アームに個性を感じる「CH22」。
1950年8月に、デンマークで開催された家具展示会にて発表されました。
無垢材の有機的なフォルムと、ペーパーコードを編んだ座面の組み合わせが、柔らかい印象です。
これらのデザインは人間工学に基づいているため、座り心地も抜群。
使う人に、とことん寄り添うウェグナーらしいラウンジチェアとなっています。
ウェグナーのこだわりが詰まったCH23
「CH23」はウェグナーデザインを象徴する作品の一つです。
体にフィットする背もたれや、二重に張られたペーパーコード、安定感のある後ろ脚など、細部にまでこだわりを感じます。
天然素材の温もりを活かしたシンプルなデザインは、座る人を選ばず、どんな空間にも馴染みます。
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彫刻的なラインが美しいチャイナチェア
「チャイナチェア(FH4283)」は昔、中国で使われていた椅子「クァン・イ」からインスピレーションを受けてつくられました。
背もたれからアームへと続く彫刻的なラインに、木工職人としての技術力の高さを感じます。
座るのはもちろん、設置された姿を眺めても心が満たされる、表現力に優れた逸品です。
発表以降もリ・デザインが繰り返され、CH24(Yチェア)やザ・チェアの誕生にもつながっています。
素朴ながら技術が光るザ・チェア
主張しすぎないシンプルデザインの「ザ・チェア」。
背もたれからアームへと続く、滑らかなラインが美しい作品です。
素朴な佇まいは、椅子ではなく使う人の存在を引き立てます。
1960年のアメリカ大統領選のテレビ討論会において「ジョン・F・ケネディ」が座ったことで、全米でも注目を集めました。
華やかな印象のピーコックチェア
扇状の背もたれが華やかな印象の「ピーコックチェア」。
孔雀が羽を広げる様子を連想させることから名付けられました。
美しいデザインだけでなく、機能性も抜群。
体のラインにフィットするようカーブを描くハイバックや、ゆったり腰掛けられる低めの座面など、計算しつくされています。
確かな技術と感性を持ち合わせた人物
木工職人としての優れた技術と、柔軟な感性をもつウェグナー。
リ・デザインを用いながらも、自分らしい作品を生みだす才能に長けていました。
完璧なフォルムのなかに感じる包容力が持ち味であり、現在も多くの人を魅了し続けています。
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恵まれた環境のなかでウェグナーは、後のデザインに役立つ知識を身に付けたのです。