女性家具デザイナーの先駆けとなったナナ・ディッツェル|歴史や功績を紹介

    ナナ・ディッツェルは、20世紀のデンマークデザイン界を代表する女性デザイナーです。

    生涯において多方面で活躍し、名誉ある賞を数多く獲得しました。

    この記事では、ナナ・ディッツェルの成り立ちやデザインの特徴、代表作について詳しく解説します。

    黄金期に活躍した女性デザイナー

    ナナ・ディッツェルは1923年10月6日にコペンハーゲンに生まれました。

    デンマークデザイン界の黄金期に活躍した人物の一人であり、現在の女性デザイナーが男性と対等に活躍するための基盤を確立したことで有名です。

    色彩にこだわりをもつナナは家具だけでなく、アクセサリーやテキスタイルなどの作品も手掛け、数々の賞を受賞。

    華やかで上品なデザインは、住宅だけでなく公共の場でも多数使用されています。

    コーア・クリントの家具デザイン理論を学ぶ

    ナナはアートやデザインに興味をもつ母親の影響を受けて、家具デザイナーを志します。

    高校を卒業したあと、家具職人養成学校「リチャード・スクール」に入学し技術を磨きました。1943年にはコペンハーゲン美術工芸学校に進学。

    本格的に家具デザインの勉強をスタートさせます。

    在学中にはコーア・クリントの授業も聴講し、彼が提唱するデザイン方法理論を学びました。

    夫婦で数々のコンペで入賞する

    美術工芸学校を卒業後、デザイナー「ヨルゲン・ディッツェル」と結婚。

    夫婦で事務所を設立し、ラタンや木材を使った家具のデザインをメインに活動していました。

    1947年には数々のコンペにおいて二人で入賞を果たします。

    家具だけでなく、テキスタイルやガラス、陶器、アクセサリーなど幅広いジャンルで受賞し、当時は「コンペ荒らし」と呼ばれるほどの輝かしい受賞歴を誇っていました。

    世界が注目する美術展覧会「ミラノ・トリエンナーレ」では金賞および銀賞を獲得しています。

    代表作ハンギングチェアを発表

    ナナとヨルゲンは1950年代に籐編みの家具をいくつか発表しています。

    なかでも代表的なのが「ハンギングエッグチェア」です。

    1956年にはこれまでの活躍が認められ、北欧デザイナーを対象にしたデザイン賞「ルニング賞」を授与されました。

    ヨルゲンが他界した後もデザイナーを続ける

    順調に活躍を続けていたナナですが、1961年に夫のヨルゲンが胃癌で他界します。

    しかし、その後も情熱を絶やすことなくデザイナーとしての活動を継続。

    1960年代前半には、母親としての経験を活かし「ルル・クレイドル」や「トリッセンシリーズ」など、子ども向けの家具のデザインも手掛けました。

    再婚後、活動の拠点をロンドンに移す

    1968年に、家具ショップを経営する「カート・ハイデ」と再婚したナナは、活動の拠点をデンマークからロンドンに移します。

    夫婦で会社を設立し、ショールームと事務所を構えて積極的に創作活動に打ちこみました。

    その努力が認められ、1981年にはロンドンのデザイン産業協会の会長に就任。デザイナーを続けながら、イギリスの産業のデザイン発展にも貢献しました。

    コペンハーゲンに事務所を構える

    精力的に活動を続けるなか、1985年に夫のカートが癌のため世を去りました。

    1986年ナナはコペンハーゲンに戻り、事務所および自宅を構え活動を続けます。

    1990年には代表作「ベンチ・フォー・トゥー」が誕生し、「第一回国際家具デザインコンペティション」において金賞を受賞。

    その後もナナは80歳近くまで、現役デザイナーとして全力を尽くしました。

    1995年以降は長女「デニー」が事務所を引継ぎ、作品の管理などを担当しています。

    ナナ・ディッツェルの主な功績

    ナナは名誉ある賞を多数受賞したほかにも、デンマークデザイン界に大きく貢献しました。

    ここからは、代表的な功績の数々をまとめて紹介します。

    女性デザイナーの活躍の土台をつくる

    ナナは、Yチェアで知られる「ハンス・J・ウェグナー」らと共に、黄金期の北欧デザイン界に多大な影響をもたらした人物です。

    柔らかさを感じるデザインや、枠にとらわれない大胆なアイデアは多くの人を惹きつけ、成功を収めます。

    後の女性デザイナーが、男性と並んで活躍するための基盤を形成しました。

    大胆な作品がデザイン界に影響をもたらす

    ナナのデザインの魅力は、固定概念にとらわれないダイナミックさにあります。

    コペンハーゲン美術工芸学校に在学中クリントからデザイン方法論を学んでいますが、後に対抗し自由奔放なフォルムへと移行します。

    そんなナナの華やかで斬新な作品は、北欧デザイン界に新風を巻き起こしたといえるでしょう。

    ナナ・ディッツェルの代表的な北欧家具

    ナナの作品は枠にとらわれない有機的なフォルムが印象的です。

    ここからは、彼女が手掛けた代表的な北欧家具を5つご紹介します。

    優しい揺れが心地よいハンギングエッグチェア

    1957年に誕生した「ハンギングエッグチェア」は、その名の通り卵型のフォルムが印象的な作品です。

    ナナとヨルゲンの代表作となり、半世紀経った現在も魅力が薄れることはありません。

    別売りのスタンドやチェーンを使うと、ゆりかごのような心地よい浮遊感を楽しめます。

    籐で編まれているため通気性が良く、湿度の高い日本の住環境にも向いています。

    螺旋模様が目を引くベンチ・フォー・トゥー

    螺旋模様の背もたれに惹きこまれる「ベンチ・フォー・トゥー」。

    1989年に、デンマークのクラシック家具を製造する「フレデリシア」から発表されました。

    これがフレデリシアとの初めてのコラボレーション作品となります。

    ナナ自身で蝶を観察し美しさを表現したという大胆なフォルムは、一度見たら忘れられません。

    「第一回国際家具デザインコンペティション旭川」において金賞を獲得しており、日本とのつながりもある作品です。

    背もたれのスリットが軽やかなファンチェア

    「ファンチェア」は1992年にデザインされました。

    複数のスリットが入った曲線的な背もたれが軽やかな印象を与えてくれます。

    代表作となる「トリニダードチェア」につながる作品ですが、当初は製造に手間が掛かり、木製の脚部の強度に懸念がでたことから製品化に至りませんでした。

    翌年にはコンピューターを用いてスリットを加工し、レッグをスチールパイプ製に変えて、商品化を果たします。

    ナナの代表作トリニダードチェア

    トリニダードチェア

    1993年にデンマークの伝統的な家具を製造する「フレデリシア」から発表された「トリニダードチェア」。

    ナナが休暇中に訪れた、カリブ海「ドバゴ島」の建築様式にみられる透かし彫りをアレンジして生まれました。

    世界で最も美しい鳥「極楽鳥」を思わせる、放射状の切り込みが華やかな印象です。

    世界的な美術展覧会「ミラノ・トリエンナーレ」において金賞に輝くなど多数入賞し、ナナの代表作となりました。

    機能的で美しいND54ハイチェア

    ND54ハイチェア

    「ND54ハイチェア」は1954年に発表されました。

    デザイナーであり夫でもある「ヨルゲン・ディッツェル」と共にデザイン。

    ナナ夫妻のもとに生まれた双子の姉妹をヒントに、必要な機能が考えられています。

    また自宅のダイニングに合うよう、見た目の美しさにもこだわっています。

    本体には無垢のビーチ材、ベルトにはサドルレザーを使用し、機能美を実現。

    足元のステップは3段階に調節できるので、子どもの成長に合わせて長く愛用できます。

    女性家具デザイナーの活躍の土台をつくった人物

    生涯を通じてデザインへの探求心や、情熱を絶やすことなく活動を続けたナナ。

    多くの功績を残し、女性家具デザイナーの活躍の基盤をつくりました。

    ナナが生みだす優しさを感じる作品は、現在も多くの人を魅了し続けています。