庶民の暮らしを変えたボーエ・モーエンセン|歴史や代表作を紹介

    ボーエ・モーエンセンはデンマークを代表する、家具デザイナーの一人です。

    生涯を通じて、庶民の理想の暮らしを追求しました。

    この記事では、ボーエ・モーエンセンの成り立ちやデザインの特徴、代表作について詳しく解説します。

    庶民の暮らしを変えたボーエ・モーエンセンとは?

    ボーエ・モーエンセンはデンマークの代表的なデザイナーです。

    1914年4月13日にデンマークのユトランド半島北部にある町「オールボー」に誕生しました。

    彼は生涯において、ターゲットの異なる家具を手掛けます。

    庶民向けの手頃なものと、高級木材を使用したものを同じ空間に配置しても馴染むのは、コーア・クリントから受け継いだデザイン方法論がベースとなっているためでしょう。

    モーエンセンの庶民の暮らしに寄り添う作品は、社会的な格差をなくすことにもつながりました。

    20歳で木工マイスターの資格を取得

    若いころから木工に関心をもっていたモーエンセンは、16歳で地元の木工職人に弟子入りします。

    修業を積んだあと20歳で「木工マイスター」の資格を取得し、家具職人としてのキャリアをスタートさせました。

    1935年に家族でコペンハーゲンに引っ越したとき「キャビネットメーカーズギルド展」や「デンパルマネンテ」の影響で、デザイン界が活気付くのを感じたモーエンセン。

    1936年にコペンハーゲン美術工芸学校に入学し、家具デザインの勉強を開始しました。

    親友となるハンス・J・ウェグナーとの出会い

    ハンス・J・ウェグナー

    モーエンセンは美術工芸学校で同級生「ハンス・J・ウェグナー」と出会います。

    二人はユトランド半島出身であることや、木工マイスターの修業経験をもつことが共通しており意気投合。親友およびライバルとして長年にわたり交流関係が続きます。

    1945年のキャビネットメーカーズギルド展では、アパートをテーマにしたブースを共同でデザインしました。

    モーエンセンは、このときリビングルーム用に「スポークバックソファ」を手掛けています。

    コーア・クリントからデザイン方法論を学ぶ

    コペンハーゲン芸術工芸学校を卒業したモーエンセンは、王立芸術アカデミー家具科に進学します。

    そこで恩師となるコーア・クリントと出会い、過去の家具の応用や数学的アプローチを取り入れたデザイン方法を学びました。

    また在学中に建築科および家具デザイナーである「モーエンス・コッホ」とクリントの事務所でアシスタントとして働き、実務経験も積んでいます。

    FDBモブラー家具デザイン室の責任者を務める

    モーエンセンは28歳という若さで生活協同組合「FDBモブラー」家具デザイン室の責任者に抜擢されました。

    キャビネットメーカーズギルド展で注目を集めたことがきっかけで、当時FDBの顧問を務めていた建築家「スティーン・アイラー・ラスムッセン」が推薦したのです。

    クリントのデザイン方法論をベースに、デンマーク産の木材の使用や工場での量産を取り入れ、一般市民も購入しやすいモダン家具を数多く生みだしました。

    1950年にFDBモブラーを退職したあとも「庶民のための機能的かつ美しい家具」という理念は、後任のデザイナーとなる「ポール・ヴォルター」や「アイヴァン・ヨハンソン」に受け継がれます。

    1950年代にFDBモブラーの家具はデンマーク国内に展開される生活協同組合のネットワークを通じて販売され、大ヒットとなりました。

    FDBモブラー時代の代表作J39を手掛ける

    1947年にはFDBモブラー時代の代表作「J39」が誕生。

    コーア・クリントの「チャーチチェア」を、さらにリ・デザインしたもので、現在も国民的な椅子として愛され続けています。

    「庶民の暮らしに寄り添う道具」を目指し続けた、モーエンセンの精神が反映された作品といえるでしょう。

    独立し新しい方向性の家具を生みだす

    1950年にFDBモブラーを撤退したモーエンセンは、コペンハーゲンに隣接する「フレデリクスベア地区」にデザイン事務所を設立します。

    「ハンティングチェア」や「スパニッシュチェア」など、これまでとは違った雰囲気の家具を生みだしました。

    リス・アルマンとコラボレーションする

    テキスタイルデザイナーの「リス・アルマン」との出会いも、大きな影響をもたらしました。

    アルマンの手掛けるテキスタイルはモーエンセンの家具の張地に度々使われ、二人のコラボレーションは長年続きます。

    モーエンセンの計算しつくされた完璧な作品に、ストライプやチェックをベースとした柄が加わることで、親しみやすく魅力的な作品となりました。

    ボーエ・モーエンセンの代表作的北欧家具4選

    モーエンセンは生涯を通じて暮らしに寄り添う家具を数多く手掛けました。

    ここからは、代表的な作品を4つご紹介します。

    庶民の椅子として親しまれるJ39

    J39

    J39」はモーエンセンが1947年に手掛けた、FDBモブラー時代の代表作です。

    どんな空間にも馴染むシンプルな佇まいは、デンマークでは「庶民の椅子」との愛称でも親しまれています。

    クリントの「チャーチチェア」を、さらにリ・デザインしています。

    チャーチチェアの細い4本のはしご状の背もたれを幅が広い1本に変更し、すっきりとした印象に。

    見た目の美しさはもちろんのこと、生産時の効率アップにもつながっています。

    斬新なデザインのスポークバックソファ

    スポークバックソファ

    スポークバックソファ」は、斬新なデザインが印象的な二人掛けのソファです。

    シーンに合わせて、色々な使い方ができるのが魅力的。

    片方の肘掛けに取り付けた革紐で、座面を好みの角度に調節することができるので、完全に倒せば寝椅子としても使えます。

    後ろから見た姿も軽やかで美しく、現在も製造される代表作の一つとなりました。

    代表作として人気のハンティング・チェア

    ハンティング・チェア

    1950年に発表された「ハンティング・チェア」はモーエンセンの代表作として人気を誇る作品です。

    コペンハーゲンで開催されたキャビネットメーカーズギルド展のために、スペイン中世のアンダルシアの家具からヒントを得て作られました。

    FDBモブラー時代のこぢんまりとした佇まいとは異なる、動きを感じるデザインが印象的です。

    使っているうちに革が伸びてきたらベルトで張り具合を調整し、長く使えます。

    オーク材と分厚い革を組み合わせた骨太なシルエットは、モーエンセンのフリーランス時代の作品を象徴する要素となりました。

    その後、発表されるスパニッシュチェアにもつながっています。

    自邸用にデザインしたスパニッシュチェア

    スパニッシュチェア

    1959年に発表された「スパニッシュチェア」は、モーエンセンが自邸用にデザインしました。

    昔スペインで使用されていた貴族階級の椅子をアレンジしています。

    座面や背に一枚革を使っているため、時間と共に味わい深く変化します。

    背もたれの緩やかな傾斜により体に負担が掛からず、楽に座ることが可能。

    お酒好きなモーエンセンらしくウィスキーグラスを置けるよう、アームレストは幅広に設定されています。

    庶民の理想の暮らしを追求したボーエ・モーエンセン

    コーア・クリントから学んだ手法を軸に、家具のデザインを通して庶民の暮らしに変化をもたらしたモーエンセン。

    亡くなったあとも現代のFDBモブラー家具の復刻など、彼の功績は引き継がれています。