日本でもインテリアの一つのジャンルとして確立している「北欧デザイン」。
けれど現在に至るまでには、厳しい冬の時代もありました。
この記事では、北欧家具が衰退した理由から、再び注目を集めるようになった現代までの歴史をたどります。
目次
北欧家具が衰退期を迎えた4つの理由
現在は国内外問わず人気のある北欧家具ですが、1970年代〜90年代中頃にかけて「衰退期」と呼ばれる冬の時代がありました。
主な理由は4つあります。
理由1:デンマーク家具へのオーダーが殺到する
衰退した理由の一つとして、デンマーク家具への需要が一気に増えたことが挙げられます。
当時のデンマークでは、家具の製作は家具職人を中心とした工房「キャビネットメーカー」によって、支えられていました。
しかし小規模だったため、注文の対応で手がいっぱいになり、新たな作品を開発する余裕がなくなってしまったのです。
また長期的な経営ビジョンを推測していなかったのも、要因の一つ。
国内外から数多くのオーダーが寄せられたことで、油断していたのでしょう。
質の低い家具をデンマーク製として、高い価格で販売する業者も出現し、デンマーク家具の衰退に拍車をかけました。
理由2:家具職人の高齢化による後継者不足
家具職人の高齢化やマイスター制度の衰退により、後継者を育成できない工房も増えました。
1970年代に入ると、大量生産をおこなう「ファニチャーファクトリー」での家具作りが一般的になり、キャビネットメーカーによる製作は減少します。
その結果、店じまいを余儀なくされる工房が増えました。
また北欧家具の全盛期に活躍した家具デザイナーや建築家たちも年齢を重ね、他界したことも衰退の理由の一つです。
理由3:ポップカルチャーやIKEAの流行
1970年代になると若者世代を中心とするポップカルチャーの影響で、デンマーク家具デザインの人気は低迷します。
北欧家具へのオーダー数も、大幅に減っていきました。
1990年代には、若者向けのリーズナブルな家具「IKEA(イケア)」も登場。
デンマーク家具と入れ替わるように話題を集め、北欧家具デザイン界は大きく変化していきました。
再評価のきっかけとなった新しい動き
デンマークモダン家具デザインには衰退期がありましたが、やがて復活を果たします。
ここからは、再評価につながる新しい動きをご紹介します。
スカンジナビアン・ファニチャーフェアの開催
最後のキャビネットメーカーズギルド展がおこなわれた1966年に、家具の国際見本市である「スカンジナビアン・ファニチャーフェア」が新たに開催されました。
これは北欧各国の家具メーカーがバイヤーと商談をおこなう場であり、後に発展を遂げます。
S・Eの開催により挑戦的な作品が誕生する
1981年からはキャビネットメーカーズギルド展を参考にした展覧会「S・E」が開かれ、家具デザイナーと製作側が共同で新作を発表しました。
伝統的な木製家具にこだわらず、他の素材を使った家具も提案されるように。
1990年代の後半からは毎年違ったテーマを掲げておこなわれ、斬新な作品の誕生につながりました。
第二世代のデザイナーたちの努力
北欧家具が再評価されるようになったきっかけとして
- ルッド・チューゲセン
- ジョニー・ソーレンセン
のユニットを初めとした、第二世代のデザイナーの活躍があります。
彼らが活動したのは、デンマークの家具デザインが低迷していた時代です。
世界の注目はイタリアの家具デザインに集まり、先行きが見えない状況でした。
それでも第二世代のデザイナーは挑戦し続けたのです。
国外でもデンマーク家具が注目される
1990年代に入るとデンマーク家具デザインは、再注目されるようになります。
日本では1990年の「フィン・ユール追悼展」を初めとした展覧会が開かれました。
2000年以降は雑誌やインターネットなどで「北欧デザイン」が紹介され、認知度がアップ。
インテリアデザインの一つのジャンルとして定着するほど、注目が高まりました。
新しいブランドが登場し新風を巻き起こす
2000年前後には
- Normann Copenhagen(ノーマン コペンハーゲン)
- HAY(ヘイ)
- muuto(ムート)
など、新しいブランドが登場。
北欧デザイン界に新風を巻き起こしました。
若手デザイナーを積極的に採用し、家具だけでなく生活に必要なアイテム全般をプロデュースします。
老舗家具メーカーと異なる特徴は、柔軟な経営方法です。
設立当初から製造を国内外の工場に外部委託し、効率的に売り上げをアップ。
長かった冬の時代を終わらせる大きな一歩となりました。
全盛期にデザインされた家具の復刻生産が増える
2000年以降には、全盛期にデザインされた家具の復刻生産が増えました。
デンマークのメーカーはもちろんのこと、国外の家具ブランドが製造ライセンスを取得し、復刻生産をおこなっているケースも増えています。
衰退期があったからこそ今の北欧家具がある
今回は、北欧家具の衰退期から現代までの歴史をご紹介しました。
さまざまな理由から一時は低迷状態にありましたが、新しいデザイナーやブランド、展覧会などの登場により、復活を果たしました。
現在日本でも広く知られている北欧デザイン・北欧家具は、多くの困難を乗り越えて存在しているのです。