北欧家具の椅子に、よく用いられる加工方法「ペーパーコード」。
ペーパーコードとは簡単にいうと、樹脂を含ませてねじった紙紐のことです。
デンマーク製が有名ですが近年は日本でも製造され、多くの人から愛されています。
インテリア好きなら、一度は目にしたことのあるハンス・J・ウェグナーの名作「CH24(Yチェア)」の座面にも、ペーパーコードが施されています。
この記事では、ペーパーコードの特徴やメリット、メンテナンス方法についてご紹介。
知識を身に付けながら、北欧家具の魅力に迫りましょう。
目次
ペーパーコードとは?
ペーパーコードとは、樹脂を含ませた紙紐のことです。
紙袋の紐に見た目が似ているので、すぐに切れてしまいそうなイメージですが、とても丈夫。
ペーパーコードの繊維は長く破れにくいため、革や布張りと同じくらい耐久性に優れています。
ペーパーコードの歴史
北欧で誕生したペーパーコード。
生産されるようになったのは第一次世界大戦中で、当時は麦などを束ねるために使われていました。
椅子の座面に用いられるようになったのは、1940年代頃からといわれています。
植物の茎や葉を原料に作られた従来のものに比べ、品質が均一だったので、使用され始めました。
ペーパーコードを使った家具としては、ボーエ・モーエンセンの代表作「J39」や、日本でも人気の高いハンス・J・ウェグナーの「CH24(Yチェア)」などが有名です。
ペーパーコードの編み方は2種類
ペーパーコードの編み方には、大きく分けて「平編み」と「封筒編み」の2種類があります。
- 封筒編み
洋封筒の裏面の形で、CH24(Yチェア)やJ39などに見られる手法です。座面の中心が緩やかに凹んでいるため、ゆったりとした座り心地が特徴です。 - 平編み
一般的に「鹿の子編み」と呼ばれるもの。ニットのように凹凸を作り出す編み方です。封筒編みに比べると、しっかりとした座り心地。
実際の家具としては、デンマークのブランド「J.L.Mollers(JLモラー)」の「78アームレスチェア」などに使われています。
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ペーパーコードの5つのメリット
ペーパーコードのメリットは耐久性だけではありません。
この章では、そのほかのペーパーコードの魅力を5つご紹介します。
汚れがつきにくい
汚れが付きにくいのもペーパーコードのメリットの一つ。
1本1本が蝋でコーティングされているため、水をはじきます。
汚れが付いてすぐなら、拭き取るだけでキレイな状態に。
お手入れ簡単なのが嬉しいですね。
使い続けるほど体に馴染む
ペーパーコードを使ったチェアは、使うほどお尻の形に馴染みます。
初めは硬くても弾力があるため、少しずつ包まれるような座り心地へと変化。
長時間、腰掛けていても快適なので、用途に合わせて椅子を使い分ける必要がありません。
ダイニングチェアとワークチェアとの兼用として使っても良いでしょう。
オールシーズン快適な座り心地
一年中、快適に使用できるのもペーパーコードの魅力です。
編み目に隙間があるので通気性が良く、夏でも蒸れません。
冬は暖房やストーブで温まった空気が通るため、座面がひんやりしにくく暖かい座り心地。
チェアによっては専用のクッションがあり、季節やライフスタイルに応じて座り心地を変えられるのもポイントです。
一度使ったら手放せなくなりそうですね。
軽いのでストレスフリー
ペーパーコードのチェアは軽いため、日常の中のストレスを軽減できます。
掃除機やモップを掛けるときも、片手でサッと持ち上げられるので家事がスムーズ。
椅子を引いたときの音も少ないので、立ち座りも快適です。
温もりを感じるデザイン
ペーパーコードは実用性だけでなく、軽やかな見た目も魅力的。
手仕事ならではの編み込みが、お部屋に温もりをプラスします。
和テイストのインテリアとも相性が良いので、日本の住宅にも馴染みます。
ペーパーコードを使ったチェアのメンテナンス方法
お気に入りのペーパーコードのチェアは、長くキレイな状態で使いたいですよね。
この章では、メンテナンスの方法を解説します。
普段のお手入れ方法
普段のお手入れは、掃除のついでに隙間に入ったほこりを掃除機で吸ったり、チェアをさかさまにして座面をはたけば十分。
汚れがついてしまったら、すぐに対処できるなら水拭きで、ある程度は落とせます。
汚れを放っておくとシミになったり、ホコリがこびりついてしまったりするので、スピーディーな対応が大切です。
液体をこぼしたときの対処法
コーヒーや醤油、ワインなどの液体をこぼしたときは、色がペーパーコードに染みこむ前に取り除きましょう。
濡らした布で擦らず叩くように拭きます。
このとき食器用洗剤は絶対に使わないでくださいね。
防水・防汚加工を施していても、完全に水をはじくわけではないので、早めの対応が大切。
専用のメンテナンス用品を使っておくと、より安心です。
防水スプレーも汚れ防止につながりますが性質上、表面がツルツルしてしまいます。
ペーパーコードならではの質感を味わいたい方は、使用を避けましょう。
張り替えのタイミング
ペーパーコードは張り替えることで、新品のようにキレイな状態になります。
座り心地も復活するので、コードが緩んだり切れたりしたら交換しましょう。
張替のタイミングの目安は10〜15年程度。
使用する環境によっては、それ以上もつ場合もあります。
張り替えをするときは専門のメーカーに依頼するのがおすすめです。
なかには自分で張り替える方もいらっしゃいますが、手間と時間が掛かります。
仕上がりの美しさを考えても、プロにお任せするのが安心でしょう。
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ペーパーコードを使用したおすすめ北欧チェア10選
北欧家具には熟練の職人が手掛ける良質なペーパーコード家具が数多くあり、抜群の座り心地を体感できます。
今回はペーパーコードを使用した北欧チェアの中でも、特に人気が高い定番シリーズを厳選してご紹介します。
北欧デザインの不朽の名作「CH24(Yチェア)」
1950年に発表されたウェグナーデザインの「CH24」。
Yチェアの愛称で親しまれる北欧家具の傑作の一つです。
CH24の完成に必要な製作工程は実に100以上。
座面のペーパーコードは熟練の職人でも1時間を要する手作業であり、1脚に120mのコードを使用しています。
このチェアのペーパーコードは、強度が高く、繊維の長いデンマーク産の天然パルプを採用。
1本ずつ蝋でコーティングしているため水を弾いて汚れが付きにくく、丈夫でお手入れしやすいのが特徴です。
ペーパーコードの座面は、使い込んでいくうちにお尻にしっくり馴染み、程よい弾力で抜群の座り心地を実現。
広めに設計された座面により、ラウンジチェアのようなくつろぎ感を得られる不朽の名作です。
空間にぬくもりとくつろぎをプラスする「CH23」
1949年にデザインされ、1960年代に一度廃盤となり2017年に復刻された伝統的な椅子「CH23」。
シンプルなデザイン、隅々まで意味を持つウェグナーの職人技巧への造詣が融合した椅子として知られます。
CH23の座面ペーパーコードは2重構造。
1脚にコードを135mも使用し、職人が手仕事で編んでいます。
通常の編み方と比べてへたりにくく、沈み込みが少ないのが特徴で、身体の丸みに沿ってカーブした座面が太もも裏を優しくホールド。
座面が広いため快適で安心感のある座り心地を楽しめるでしょう。
自然素材と洗練されたスタイルで空間に温もりをプラスする一脚です。
大胆で彫刻的なフォルム「CH25」
「CH25」は、ウェグナーが当時のカール・ハンセン&サンの社長宅に3週間滞在して開発した最初の椅子シリーズの一つで、1950年に発表されました。
ペーパーコードを使用したラウンジチェアは、発表当時に革新的なデザインとして評価され、その後も多くの人を魅了し続けています。
座背面のペーパーコードは、熟練した職人でも1脚完成させるのに10時間を要し、使用するコードは400m。
CH23と同じ2重構造の編み方により、耐久性に優れた独自の張りが美しい編み模様を創り出し、身体を包むようなゆったりとした心地よさを感じられます。
人間工学に基づいた座り心地「CH22」
1950年に発表され、2016年に数十年の年月を経て生産が再開された「CH22」。
ペーパーコードの座面、木製の楕円形の埋木を用いた背もたれが印象的で、ウェグナーデザインならではの職人技が光るラウンジチェアです。
18ものパーツで構成されたチェアは、殆どの工程が1950年当時と同じ製法で復刻。
ペーパーコードの座面は、封筒の裏面に見られる対角線を描いたような模様の編み方で、約190mに及ぶコードを一脚一脚、職人により丁寧に張られています。
人間工学に基づいた快適な座り心地を堪能でき、空間に美しい佇まいを添えるチェアです。
残された手書きの図面を元に製作した幻のチェア「CH26」
ウェグナーがカール・ハンセン&サンから発表した最初の椅子シリーズの一つ「CH26」。
CH22を元に1950年にデザインし図面は残されていたものの、試作も作られず、世に紹介もされなかったダイニングチェアを2016年に初めて発表しました。
CH22を彷彿させる幅広い笠木の背もたれとペーパーコード張りの座面、美しいフォルムが上質感を漂わせる構造です。
封筒の裏面を思わせる模様に張られたペーパーコードの座面は、熟練の職人によって一つずつ丹精に作られています。
強度と安定性を持ち合わせたチェアはデスク用の椅子にも活用でき、ワークスペースをエレガントな雰囲気に飾るでしょう。
クラフトマンシップを突き詰めたスツール「CH53」
1996年に発表されたスツール「CH53」。
無垢材で製作されるフレームと手仕事によるペーパーコード張りの座面で構成されたシンプルなデザインながら、存在感を放つ一脚です。
脚の強度を確保するためにペーパーコードを張る縦と横の貫に高低差をつけ、横貫の中央に少し丸みを持たせることで貫中央部の耐久性をアップしています。
椅子づくりを極めた匠の技が光る、丈夫で機能美溢れるツールです。
座背面の鹿の子編みによるフォルムが美しい「MG501」
キューバチェアの愛称で知られる「MG501」は、1997年にモーテン・グッドラーによりデザインされた折り畳みチェアです。
フォルムの美しさと機能性を追求したこのチェアのポイントは、座背面を構成するペーパーコード。職人の手作業により編み目が詰まった「鹿の子編み」に編み込まれています。
体重をかけることでアーチ状に傾斜する座面と背もたれに身体が包まれるような心地よさを感じられ、休息感が得られる一脚。折り畳んだ時にも目を和ませ、空間に映える造りです。
スチールとペーパーコードの融合「PK1」
1955年に発表された「PK1」は、ポール・ケアホルムがデザインした初めてのダイニングチェアです。
熟練の職人がペーパーコードのシートを手織りするのに15時間かかると言われ、手仕事ならではの優美な形状、身体の丸みにフィットする座り心地を実現しています。
スチール製のフレームと座背面のペーパーコードが融合したモダンなデザインでインテリアを問わずフィットするのもポイント。
カール・ハンセン&サンの美学と快適さ、安定性のバランスが取れた一脚で、今日のデザインアイコンとして評価されています。
ウェグナーの集大成ダイニングチェア「PP68」
生涯500種類以上ものチェアをデザインしたウェグナーの集大成といわれ、1987年、彼が最後に発表したダイニングチェア「PP68」。
PPモブラーの椅子の中で最も販売数が多く、世界中で愛されるチェアです。
元々、フェリーの客室用にデザインされた業務向けであったため、長時間座っても快適で簡単に壊れない構造となっており、お尻が心地よくフィットするペーパーコードの座面がポイント。
紙を縒って作ったペーパーコードを一つずつ職人の手で丁寧に編み込んで作られた造形美と耐久性、年月の経過による色味の変化を楽しめる味わい深さが魅力です。
70年にわたり愛される「J39」
1947年にボーエ・モーエンセンが発表した「J39」。
無垢材と手織りのペーパーコードの座面が特徴で、幅広いシーンで愛用されるタイムレスな人気のチェアです。
お尻を包むように沈む座面は、ペーパーコード張りによりソフトな座り心地で長時間座っても快適。
ペーパーコード職人が一脚ずつ手張りしているため強度が高く、手仕事ならではの温かみを感じられます。
たくさんの魅力をもつペーパーコード
ペーパーコードが椅子に使われるようになって約70年。
現在も多くの人から愛されているのには、たくさんの理由があります。
気になるチェアがある方は、ぜひ実物に座ってみてください。
時間を掛けて育てたくなるでしょう。
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紙袋の紐が薄い1枚の再生紙であるのに対して、ペーパーコードは天然パルプでできた紙を、3本ねじり合わせて作られています。