多機能トイレやスロープなど、街でよく見かけるバリアフリー。
バリアフリーの意味はなんとなくわかっていても、実際に家族や自分に必要になるまで、それがどんなに重要なのか考えることはあまりないかもしれません。
でも、できる時に家をバリアフリーにしておくと、必要になった時に「やってて良かった」と実感できるはず!
こちらでは、バリアフリーの法律にも触れて、何に気をつけてリフォームを進めるのかなど、バリアフリーの家作りをするにあたってのポイントをご説明します。
目次
「バリアフリー」とは
バリアフリーとは、英語で「Barrier free」と書くように、高齢者や障がい者が生活する上で支障となる障害(バリア)を除去(フリー)するという考え方です。
多くは物理的な障害を指しますが、社会や制度、心理面や情報面での障害を除去する意味でも使われます。
なお、英語圏で「Barrier free」は段差を取り除くことのみを意味し、日本のバリアフリーの意味合いでは「accessibility」が使われます。
よく耳にするバリアフリーに関する知識
最近よく耳にするバリアフリーという言葉。
今でこそ、その言葉は浸透しつつありますが、それも人々のたゆまぬ努力があったからこそ。
街のバリアフリー化を促すバリアフリーの法律も一役買っていると言えるでしょう。
これまで、どんな経緯を経てバリアフリーの制度化が進んできたのか、また、家をバリアフリーにすることで受けられる補助金があるかどうかについても押さえておきましょう。
バリアフリーへの歩み
高齢者や障がい者が住みやすい街づくりへの取り組みとしては、日本では1990年代から病院やデパートなどの建築物のバリアフリーを促進する「ハートビル法」や、公共交通機関での移動を円滑にする「交通バリアフリー法」が制定され、バリアフリー化が進められてきました。
しかし、これらの法律の下では施設ごとのバリアフリー化が限界で、その施設に行き着くまでの障害は解消されないまま。
利用者の視点に立った対策が不十分でした。
「バリアフリー新法」とは?
これまでの反省点を踏まえて2006年に施行されたのが、「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」です。
いわゆる「バリアフリー新法」と呼ばれます。
新法では、交通機関や各施設の整備のみならず、地域で一体となってバリアフリー化を図り、国民の意識を高めるための「心のバリアフリー」も促すとしています。
この法律で、知的障がい者、精神障がい者及び発達障がい者を含む全ての障がい者を対象に含むと明言したのも大きな前進と言えます。
その後、「バリアフリー新法」が実施に移されても様々な課題が浮かび上がり、改善に取り組む市町村へのサポートや事業者の接遇への対策など、法律をより実施しやすいように2018年に改正されています。
家をバリアフリーにしたら補助金がもらえる?
自治体に設置される介護認定審査会から「要支援」または「要介護1〜5」と認定された場合、介護保険から補助金を受けることが可能です。
住宅のリフォームに支給限度基準額20万円を限度として、工事費の9割、最高18万円が支給されます。
リフォームの種類は、手すりの取り付けや段差の解消、滑り止め、引き戸等への扉の取り替え、便器の取り替えなどが対象となります。
また国土交通省では、「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の一環として、3世代同居対応改修工事を行なった既存の住宅に対して、該当する工事費用の1/3、1戸につき最大150万円までの補助金を出しています。
ただし、介護保険の補助金も国土交通省の事業も細かい規定や条件があるので、どんな条件があるか問い合わせることをおすすめします。
この他にも、バリアフリー改修に対する減税や各自治体による支援制度もあるので、業者や自治体に確認すると良いでしょう。
「ユニバーサルデザイン」とはどこが違う?
バリアフリーと共に、時々耳にする「ユニバーサルデザイン」。
内閣府によると、ユニバーサルデザインとは「あらかじめ、障がいの有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方」を言います。
バリアフリーは、障がいがあることで発生するバリアを取り除くのに対し、ユニバーサルデザインは、最初から使いやすさを追求して作る方法なのです。
また、ユニバーサルデザインの対象は障がい者や高齢者に限定せず、人種や言語、年齢の違いも含め、より広範囲です。
バリアフリーデザインの家づくりで意識したい3つのポイント
バリアフリーに配慮して住宅作りを考える時、意識したいポイントがあります。
ひとつに家族構成、同居世代、身体状況といった現在の状況と住む人のニーズ、そして、子どもが生まれ、育ち、巣立つことや、介護や車椅子の生活を想定することも大事です。
現在と将来を見据えて、家族の生活に合った家作りが快適な生活の鍵となります。
家族構成・同居世代・身体状況
バリアフリーデザインを取り入れた住宅作りをする際に考えたいのは、まず、その家に住む家族構成や同居する人の世代、そしてそれぞれの身体の状況です。
一般的に、バリアフリーを考慮した住宅では、高齢者や障害者の寝室と、リビングや浴室・トイレなど、利用する場所を同一階にする、段差をなくす、姿勢を支えるために玄関、トイレ、浴室、脱衣所に手すりを設けるなどが挙げられますが、あくまでそれは例に過ぎません。
それぞれの生活様式や習慣に合ったリフォームを考えることが何よりも重要です。
将来の介護や家族が増える可能性
リフォームする時、現段階は必要なくても、いずれ自分や家族に介護が必要となる時を考えた設計ができれば理想的です。
また、バリアフリーは高齢者や障がい者のためと思われがちですが、誰でも使いやすく配慮するという点で、若い世代にも有効なのです。
例えば、家の中の段差を減らす、滑りにくい床材を選ぶ、脱衣所や風呂場に広い場所を確保するなど、高齢者だけでなく、小さな子どもも使い勝手が良くなることも多々あります。
将来的に車椅子を使う可能性
突然車椅子の生活になっても、暮らし慣れた家で生活できるようにできたら良いですね。
そのためにまずできるのは、家の入り口、家の中で動きやすいように段差をなくす、スロープをつける、手すりをつけるなど。
さらに、トイレや浴室でもスペースを広くしたり、縁の低い浴槽に変えられたら移動も楽になり、自立した生活が可能になります。
車椅子でも届くように電気のスイッチの位置を低くするなど、健常者ではなかなか気づかない部分もあるので、どんなことができるのか専門業者に意見を聞くのも良いでしょう。
各部屋のバリアフリーデザインをご紹介
バリアフリーと一言で言っても、それぞれの生活スペースに適したものでなければ意味がありません。
どの部分にどんな改善ができるのか、ひとつひとつ見ていきましょう。
大掛かりな工事が必要な方法から簡単に取り付けられるものまで、必要性と予算に合わせて選ぶようにしましょう。
玄関はスロープで段差を解消
住宅のバリアフリー化で、まず考えたいのは玄関です。
車椅子生活でなくても、年を取ると、ちょっとした段差でもつまずきやすくなると言われます。
改善策のひとつの手段として、段差をなくして緩やかな勾配にするスロープがあります。
スロープは、手動の車椅子を使って自力で上がることを考えると、段差の12倍の長さが必要だと言われます。
例えば50センチの段差がある場合、直線距離で6メートルのスロープが必要になります。
でも実際は、それほど長いスロープをつけられない家も多いことでしょう。
玄関にスロープを作れなければ、リビングなど、他の窓からの出入りに切り替えたり、移動時だけ仮設のスロープを設置することも可能です。
幅や手すりの配慮した廊下
廊下の幅は、身体状況にもよりますが、伝い歩きができる場合は780ミリ以上、介助式車椅子での通行を考える場合は850ミリ以上必要と言われます。
移動時に支えとなる手すりは、バランス確保にもあると安心です。
手すりの高さは床から750~800ミリの高さを目安としましょう。
他の場所同様、滑りにくい床材を選んだり、床暖房を入れることもできれば、移動時の気温差を防ぐことも可能です。
トイレ・浴室は床材質や手すり設置で改善
高齢者や障害者の快適な生活の鍵となるのが、トイレや浴室。
拡張したり、バリアフリー用の便器や浴槽に変えられれば良いですが、予算やスペースの関係で大きなリフォームができないことも。
そんな時は、滑りにくい床材に変更したり、手すりを取り付けることで、使用する時の体への負担が軽減するだけでなく、転倒防止にもつながります。
室内の扉は引き戸で段差を解消
元気な時は何気なく開け閉めする扉。
押したり引いたりして開け閉めする「開き戸」は、スペースを取る上、敷居があるので高齢者や障害者には障害となることもあります。
歩行困難な高齢者や車椅子でも安心して通れるのが開口幅の広い「上吊り引戸」です。
開閉が楽にできて、歩いてもレールなどでつまずくこともありません。
フラットなので掃除も楽にできるようになります。
階段や勾配の緩和設計
基本的に、高齢者や障がい者が生活を考えた場合、寝室と、リビングや浴室、トイレなど、利用する場所を同一階にすれば安心です。
ただ、それが難しい場合、階段の勾配を緩やかにして、手すりや滑り止めなどで転倒防止策や転倒した場合の措置を考えておくべきでしょう。
高齢者や障がい者の家庭での階段の勾配は、最低でも22/21、推奨されるのは6/7以下です。
標準的な2500ミリメートルの天井の高さに対し、22/21の場合は14段以上、6/7は17段以上になります。
足元の照明設置
視力が落ちている高齢者や障害者にとって、足元に照明を設置するだけで、歩く時に安心感が得られます。
特に階段では照明でコントラストをつけることで、段差を見間違えることなく上り下りできるようになります。
推奨される照度は、玄関、階段、廊下では50ルクス。50ルクスは一般的に10メートル先の人を見分けられる照度ではありますが、視力が低下している高齢者や障害者には、それ以上の照度があれば良いでしょう。
バリアフリーデザインの家で家族全員快適に過ごそう
年を経て高齢となった時、怪我や病気で動けなくなった時、家がバリアフリーになっていれば快適に過ごせる上、自立した生活ができるようになります。
バリアフリーのデザインは、赤ちゃんから子ども、健常者の大人も使いやすいものが多くあります。
子どもの成長、両親との同居など、同居する家族や今後のライフステージにも合わせて、無理なくバリアフリー化を進めて、家族全員快適に過ごせる家づくりができると良いですね。