オーレ・ヴァンシャーは、デンマークのモダン家具デザインの黄金期に活躍したデザイナーのひとり。
品質の高い木材や革を用いて、優美かつ機能的な作品を数多く手掛けました。
この記事では、オーレ・ヴァンシャーの歴史やデザインにおける特徴、代表作について詳しく解説します。
クリントの愛弟子オーレ・ヴァンシャーとは?
1903年9月16日にコペンハーゲンで生まれた、オーレ・ヴァンシャー。
1925年より王立芸術アカデミー家具科にて、デンマークモダン家具デザインの先駆けとなった人物「コーア・クリント」から家具デザインを学んだ愛弟子の一人でもあります。
ヴァンシャーは在学中に事務所での勤務を経験しており、クリントの名作「レッドチェア」のデザインにも携わりました。
1929年に王立芸術アカデミーを卒業したあとは自身の事務所を立ち上げ、複数のメーカーから作品を発表します。
また、デザインだけでなく家具の歴史の研究や、後進の育成にも力を注ぎ多くの功績を残しました。
美術史家の父の影響を受け家具の研究に励む
ヴァンシャーは美術史家である父「ヴィルヘルム・ヴァンシャー」の影響を受け、家具の歴史的な背景に関心をもちます。
研究のためヨーロッパやエジプトへ旅行に行くなど、精力的に世界各国の家具の研究に勤しみました。
その経験がヴァンシャー独特の世界観の一部となっています。
エレガントな印象の家具を多く手掛ける
ヴァンシャーの作品は、華奢なラインと動きを感じるフォルムのバランスが絶妙です。
フレームには、ローズウッドやマホガニーといった高級木材、シートには革や馬毛を使用し高級感あふれる仕上がりになっています。
上質な素材が生みだす優美なデザインだけでなく、耐久性にも優れており「一度座ると毎日腰掛けたくなる椅子」として評論家から高く評価されました。
ヴァンシャーが生みだすエレガントな作品は、一般庶民にはなかなか手が届かないものでしたが、のちに機械量産を前提とした比較的手頃な家具の製作にも挑戦しています。
王立芸術アカデミー家具科の教授に選ばれる
クリントが他界したあと、家具科の教授の後継者にヴァンシャーが選ばれます。
もう一人の弟子である「ボーエ・モーエンセン」や、アメリカで活躍する「フィン・ユール」も候補でしたが、デザイナーとして活動しながら家具の研究にも励むヴァンシャーが任命されました。
主任教授として後進の教育に力を注ぎ、後のデンマークデザイン界に多大な影響をもたらします。
オーレ・ヴァンシャーの主な功績
ヴァンシャーは家具デザインや歴史の研究、後進の育成など数々の功績を収めました。
ここからは具体的な例をいくつかご紹介します。
研究を通じて後のデザイナーに影響を与える
家具の研究にも尽力をつくし、関連する著書を数多く残したヴァンシャー。
1932年に刊行した、家具様式の歴史本「MOBELTYPER」は後のデザイナーに大きな影響をもたらしました。
デンマークを代表するデザイナー「ハンス J. ウェグナー」は、掲載されていた中国・明代の椅子の写真を見て刺激を受け、初期の代表作「チャイナチェア」をデザインしたといわれています。
一般庶民向けの家具にも挑戦
ヴァンシャーは高級家具を手掛ける一方で、一般庶民向けの作品にも挑戦しています。
「デザイン家具を全ての人に」という世間の風潮に合わせて、機械での量産を前提とした物づくりに取り組みました。
具体的には、1959年に「P.J.ファニチャー」より発表された「コロニアルチェア」や、1949年に量産家具メーカー「フランス&サン」から発売された、ラウンジチェアやソファーのシリーズが挙げられます。
オーレ・ヴァンシャーの代表的北欧家具
家具を建築物として捉え生みだしたヴァンシャーの作品は、曲線を用いたエレガントな雰囲気が魅力です。
ここからは、代表的な北欧家具を5つご紹介します。
数学的アプローチを用いたコーヒーテーブル
楕円形の天板と華奢な脚が美しいコーヒーテーブル。
シンプルながら機能性にも考慮されたデザインが印象的です。
名工「A.J.イヴァーセン」によって丁寧に作られています。
また、クリントから学んだ数学的アプローチを取り入れることで、端正な佇まいを実現。
同年の展覧会に導入されたデザインコンペにて賞を受賞しました。
庶民向けに作られたOW149 コロニアルチェア
「コロニアルチェア」は一般庶民に向けてデザインされた、ラウンジチェアです。
1959年にデンマークの家具メーカー「P.J.ファニチャー」より発表され、その後「カールハンセン&サン」に製造が引き継がれました。
背もたれと肘掛けの接続部分や、後ろ脚の曲線が美しく、代表作として現在も高く評価されている作品です。
機械での大量生産を想定し、スムーズに加工できるよう考慮されているのも大きな特徴。
籐編みのシートはフレームと別々に作られており、最終段階で枠に取り付けられます。
背もたれと座面のクッションも独立したタイプ。後ろ脚の先端にリングを掛けて固定する仕組みです。
デザインの美しさを損なわず、効率的に製造できるよう工夫されています。
くちばしのようなアームが特徴のOW124 ビークチェア
鳥のくちばしを連想させる緩やかなアームと、目のような木製のボタンが印象的な「OW124 ビークチェア」。
1951年におこなわれた「キャビネットメーカーズギルド展」にて発表されました。
当時は強度に不安があったことと、製作技術面の問題から量産が持ち越しに。
ここ最近、デンマークの家具会社「カール・ハンセン&サン」によって復刻を果たし、ヴァンシャーを代表する作品に加わりました。
家具の製作技術を熟知しているからこそ生みだせた一脚です。
歴史の研究から生まれたエジプシャン・スツール
「エジプシャン・スツール」は1957年にA.J.イヴァーセンの製作で発表されました。
古代エジプトで使われていた、権力のシンボルである折り畳み式スツールからインスピレーションを受け、モダンな雰囲気にリ・デザイン。
軽やかなレッグ部分と、サドルレザーのシートの組み合わせに風格を感じます。
世界各国の家具を研究してきたヴァンシャーを象徴する作品であり、現在も多くのファンを魅了し続けています。
同シリーズで揃えたいOW449 コロニアルテーブル
1964年に「コロニアルシリーズ」の一つとして生産された「OW449 コロニアルテーブル」。
2015年に「カール・ハンセン&サン」によって復刻を果たしました。
同ラインナップのチェアやソファーとの調和を考えてデザインされており、正方形の天板とほんのり丸みを帯びたラインが特徴的です。
インテリアに取り入れれば、伝統的な北欧モダンスタイルが楽しめます。
教育者や学者としても功績を残した家具デザイナー
学者としての豊富な知識と、優れた技術力を併せもったヴァンシャー。
伝統を大切にしつつも現代の暮らしに馴染むデザインは、デンマークはもちろんのこと国外でも高く評価されています。
また後進の育成や、本や論文の刊行などを通じて北欧家具デザイン界に大きな影響をもたらしました。
クリントと並んで、黄金期の基盤をつくった人物といえるでしょう。