北欧家具好きなら押さえておきたいリ・デザイン|意外と知らない豆知識

    北欧家具の名作として、よく知られるシリーズには「リ・デザイン」の考え方や思想が多く含まれています。

    「北欧家具について、もっと知りたい」という人に向けて、この記事ではリ・デザインの特徴や、実際に用いて作品づくりをした人物、有名な家具について解説します。

    デンマーク独自のモダニズムとなったリ・デザイン

    リ・デザインとは「再設計」を意味します。

    過去の作品をベースに、現代のニーズや暮らしに合うようアップデートさせるデザイン方法。

    伝統を切り離すのではなく真摯に向き合うところが特徴的です。

    リ・デザインの考え方が広まった、きっかけの一つにドイツの美術学校である「バウハウス」を中心としたモダニズム運動があります。

    当時、工場での大量生産にも適した合理的な物づくりがヨーロッパで盛んになりました。

    その風潮はデンマークにも広まりましたが、他の国とは異なる変化を遂げます。

    伝統的なクラフトマンシップを大切にしながら、デザインを市民に開放する」という、本来の意味でのモダニズムが形になったのです。

    リ・デザインを家具に取り入れたコーア・クリント

    コーア・クリント

    リ・デザインの思想を家具デザインに取り入れたのが、建築家および家具デザイナーである「コーア・クリント」でした。

    彼は後の有名デザイナーたちにも大きな影響をもたらし「デンマークモダン家具デザインの父」と呼ばれている人物です。

    家具の研究やデザインだけでなく、1924年に創設されたデンマーク王立芸術アカデミーの家具科では、教育者として後進の指導にもあたっています。

    こうしてリ・デザインの考え方は他のデザイナーたちに受け継がれ、数多くの名作誕生へとつながっていきました。

    クリント派と非クリント派

    北欧家具デザイナーには、クリントの教えを自身のデザインに反映させた「クリント派と、独自の手法で作品を手掛ける「非クリント派が存在します。

    それぞれのアプローチの違いや、人間関係を知ることは、デンマークモダン家具デザインの歴史において重要なポイントです。

    クリントの教えをデザインに取り入れたクリント派

    クリントから「リ・デザイン」の考え方を学んだデザイナーを「クリント派」と呼びます。

    ここからは、各デザイナーたちの歴史をご紹介します。

    後のデザイナーに影響をもたらしたオーレ・ヴァンシャー

    オーレ・ヴァンシャー

    「オーレ・ヴァンシャー」はクリントの教え子の一人。

    デンマーク王立芸術アカデミーの家具科で家具デザインを学び、クリントの代表作であるレッドチェアのデザインにも携わっています

    クリントが亡くなったあとは家具科教授を引き継ぎ、後進の教育に勤めました。

    また家具の研究にも励み、手掛けた著書は後のデザイナーたちに大きな影響を与えました。

    「ハンス J. ウェグナー」はヴァンシャーが1932年に刊行した本「家具様式」に掲載していた、中国の椅子からインスピレーションを受けて「チャイニーズチェア」をデザインしています。

    リ・デザインを実践し名作J39を手掛けたボーエ・モーエンセン

    ボーエ・モーエンセン

    「ボーエ・モーエンセン」はデンマーク王立芸術アカデミーの家具科で、生涯の恩師となるクリントと出会いました。

    在学中はクリントと、デンマークの建築家および家具デザイナーである「モーエンス・コッホ」の事務所で、アシスタントとして勤務していました。

    デンマーク王立芸術アカデミーを卒業後は、生活協同組合FDBのオリジナル家具をデザインする「FDBモブラー」家具デザイン室の責任者に就任。

    リ・デザインを実践し、モーエンセンの代表作となる「J39」を手掛けています。

    Yチェアのデザイナーとして知られるハンス J. ウェグナー

    ハンスJ.ウェグナー

    CH24(Yチェア)のデザイナーとして有名な「ハンス J. ウェグナー」もリ・デザインの手法を取り入れていたクリント派です。

    クリントの教え子の一人である「オルラ・モルゴー・ニールセン」が教壇に立つコペンハーゲン美術工芸学校でデザインを学びました。

    3年目に自主退学し、ヤコブセンとエリック・モラーの建築事務所に勤務

    実践的な家具デザインの技術を取得しています。

    その後デザイナーとしての才能を発揮させ、生涯において500脚以上もの椅子を手掛けました。

    独自のアプローチでデザインを手掛ける非クリント派

    「非クリント派」は、クリントが提唱した「リ・デザイン」の思想ではなく、独自のアプローチで家具を手掛けたデザイナーです。

    建物の要素として家具デザインを捉えたアルネ・ヤコブセン

    アルネ・ヤコブセン

    建築家およびデザイナーの「アルネ・ヤコブセン」は、ウェグナーやモーエンセンとは異なり、木工マイスターとしての修業を積んでいません。

    クリント派の彼らとは、家具デザインに対するアプローチ法も異なりました。

    ヤコブセンにとって家具デザインは、自身が設計した建物の一つの要素

    全体を総合的に捉えた、統一感のある空間を数多く手掛けました。

    独自のスタイルで生みだす優雅な作品が魅力のフィン・ユール

    フィン・ユール

    「フィン・ユール」もヤコブセンと同様、木工マイスターの資格を保有していませんでした。

    クリントが提唱するデザイン方法論には対抗意識を抱いており、一部の木工マイスターやクリント派のデザイナーからは批判されることも。

    けれど独自のスタイルを生涯にわたり貫きました。

    「家具の彫刻家」とも呼ばれるユールの作品は、曲線を用いた優雅なフォルムが特徴的です。

    名作チェアの一つである「No.45」は「世界で最も美しい肘を持つ椅子」と称されました。

    色を重要視し斬新なデザインに挑戦したヴァーナー・パントン

    ヴァーナー・パントン

    デザインの概念を覆す、個性的な作品が魅力の「ヴァーナー・パントン」。

    パントンチェアのデザイナーとして、広く知られています。

    色彩をメインに取り入れ、照明器具やインテリア空間、それに伴う家具を手掛けました。

    ヤコブセンの事務所で働いていた時期もあり、名作家具「アントチェア」の開発にも関わっています。

    リ・デザインが色濃く反映された名作家具3選

    初代コーア・クリントをはじめ、リ・デザインが影響した作品は数多く存在します。

    ここからは、リ・デザインの考え方をもとに誕生した名作家具を3つご紹介します。

    コーア・クリントの代表作レッドチェア

    レッドチェアはクリントの代表作の一つです。

    1927年にコペンハーゲン市内にある「デンマーク工芸博物館 (現:デザインミュージアム・デンマーク)」の講義室用として誕生しました。

    チッペンデール様式のチェアをリ・デザインしたもので、革張りの座面と背もたれに風格が漂います。

    チッペンデール様式とは、イギリスで18世紀中ごろに活躍した家具作家「トーマス・チッペンデール」が確立したデザインのスタイル。

    ロココやゴシックなど、さまざまな要素が含まれています。

    アメリカ生まれのチャーチチェアをリ・デザインしたJ39

    1947年に誕生した「J39」はボーエ・モーエンセンの代表作。

    19世紀にアメリカで誕生したシェーカーチェアをリ・デザインしています。

    見方によってはクリントがデザインした「チャーチチェア」を、さらにリ・デザインした作品であるとも考えられます。

    製品化されたあとコストを抑えるために、自身のデザインを再び設計しているのが特徴的です。

    発表当初は座面にシーグラスを使っていましたが、戦後の物資不足によりペーパーコードに変更しています。

    Yチェアの誕生にもつながったチャイニーズチェア

    チャイニーズチェア

    ハンス J. ウェグナーが手掛けた「チャイニーズチェア」にも、リ・デザインが取り入れられています。

    ウェグナーが図書館で見かけたオーレ・ヴァンシャーの著書「家具芸術」に掲載されていた、中国・明代の椅子「圏椅(クァン・イ)」にインスピレーションを受けて作られました。

    チャイニーズチェアはその後、何度もリ・デザインを繰り返し、日本でも人気を誇る北欧家具の傑作「Yチェア」の誕生にもつながっています。

    北欧家具デザインの根底にあるリ・デザイン

    この記事では、北欧家具の大きな特徴の一つである「リ・デザイン」の考え方について、詳しくご紹介しました。

    時代の流れに、そのまま従うのではなく伝統的なクラフトマンシップを維持することで、デンマークならではのモダニズムが形成されました。

    過去の作品と真摯に向き合いながら、より良いデザインを生みだすリ・デザインの精神は、北欧家具デザインの土台といえるでしょう。

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      cova
      「五感」と「空間提案」をテーマとする建築士。職人の手仕事が感じられるモノや空間は、視覚的な美しさだけでなく、触れた感触が心地よかったり、そこでの食事の味や音の響きにまで影響を与えるもの。机上で完結しない、現場でのインスピレーションを大切にしています。