不動産における「インスペクション」とは、既存住宅の建物調査のことを指します。
住宅の床版や内壁、外壁、屋根などの部位について問題がないかを調査するものであり、とくに中古住宅市場において近年注目を集めています。
この記事ではインスペクションの基礎知識や、インスペクションを実施するメリット・デメリットなどを解説していきます。
知らなければトラブルに発展してしまうような大事なポイントもありますので、住宅の売買を検討している人はぜひ最後までお読みください。
目次
ホームインスペクションの意味とは?
ホームインスペクションとは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が行う住宅に関する調査・診断のことです。
具体的には住宅の劣化状況を調査したり、改修にかかる費用などを算出したりします。
まずは「ホームインスペクションと建物状況調査の違い」や、「インスペクションにかかる費用」などについて詳しくみていきましょう。
建物状況調査との違いは?
ホームインスペクションと混同されやすいものに「建物状況調査」がありますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか?
まずホームインスペクションとは、前述のとおり専門家が行う住宅に関する調査・診断のことです(住宅診断の一種)。
一方、建物状況調査は「宅建業法で定められた基準に基づいた検査」を指します。
ホームインスペクションは業者ごとで検査内容や検査員の資格の有無などに違いがありますが、建物状況調査は宅建業法によって明確に定められた基準、資格に基づいて検査が行われています。
インスペクションの費用
インスペクションにかかる費用は業者によって異なりますが、目視による一次診断の場合は「5~6万円」が相場です。
機材などを使ってより詳しく診断する場合は、10万円以上の費用がかかるケースもあります。
インスペクションは義務化されている?
宅地建物取引業法が2018年4月に改正されたことにともない、「インスペクションが義務化された」といった情報が一部で出回っています。
しかし義務化されたのは
✓不動産会社はインスペクション業者を斡旋できるかどうかについて告知すること
✓インスペクションを実施した事実について説明すること
などの内容です。
インスペクション自体が義務化されたわけではありませんので、インスペクションするかしないかは買主と売主双方の意思にゆだねられています。
インスペクションの主な対象部位
続いて、インスペクションの主な調査対象部位をみていきましょう。
戸建て住宅の場合
戸建て住宅の場合は、以下が調査対象部位となります。
- 構造耐力上主要な部分
基礎、土台、床版、柱、横架材、壁、斜材、屋根版、小屋組 - 雨水の浸入を防止する部分
基礎杭、基礎、床版、壁、外壁、屋根版外壁、開口部、屋根
マンション住宅の場合
マンション住宅の場合は、以下の部位が調査対象です。
- 構造耐力上主要な部分
基礎杭、基礎、床版、壁、外壁、屋根版 - 雨水の浸入を防止する部分
外壁、開口部、屋根、配水管
売主にとってインスペクションのメリットは?
インスペクションを実施することで、売主にとってどんなメリットがあるのかを紹介します。
早く高く売れる可能性がある
第一に、物件を売るときに早く高く売れる可能性がある点がメリットです。
インスペクション実施済みの住宅は「専門家の視点から見て問題なし」と認められていることを意味しますので、買主にとっては大きな安心材料となるでしょう。
全国宅地建物取引業協会連合会が2017年3月に実施した「土地・住宅に関する消費者アンケート調査」によると、インスペクションの効果について6割以上の人が「自宅が希望価格で売れた」と回答しています。
修理費用を請求されるリスクやトラブルの可能性が低い
インスペクションを行うことで、住宅の瑕疵(かし)や不具合などが見つかる場合もあります。
しかし瑕疵や不具合を事前に把握しておくことは非常に重要であり、これを行うことで売却後に修理費用を請求されてしまうリスクを抑えられます。
瑕疵や不具合が見つかった場合は売却前に補修しておけば、買主への印象を良くする効果も期待できるでしょう。
「住宅瑕疵担保保険」付保の要件の一つである
インスペクションの実施は「住宅瑕疵担保保険」付保の要件の一つとなっています。住宅瑕疵担保保険とは、売却後に隠れた瑕疵が発見された場合の補修費用を保険金で賄うことのできる保険です。
住宅瑕疵担保保険が付保された住宅は「住宅ローン控除」などの税制優遇も受けられることから、買主にとって大きなメリットを感じてもらえるでしょう。
売主にとってインスペクションのデメリットは?
メリットとあわせて、インスペクションを実施するデメリットについても確認しておきましょう。
インスペクション費用を負担する必要がある
まずはインスペクション費用がかかってしまう点が挙げられます。
先ほども説明したとおり、目視による診断であれば5~6万円、機材などを使う診断であれば10万円以上がインスペクション実施には必要です。
実際にかかる費用は家の大きさや業者によって大きく異なりますので、複数社に見積もりを依頼したうえで決定するのをおすすめします。
調査期間で時間がかかる
インスペクション調査を完了させるまでに時間がかかってしまうのもデメリットの一つです。
インスペクションの調査そのものは2~5時間程度で終わりますが、最初の日程調整や、インスペクション実施後の報告書の受け取りまでにはそれぞれ1週間程度の期間がかかります。
物件の値下げや修繕費発生の可能性がある
インスペクションによって住宅の瑕疵(かし)や不具合などが見つかれば、当然その部分については補修を行ったり買主に対して説明をしたりする必要があるでしょう。
それにともない修繕費の負担や物件の値下げが必要になるケースもありますので、この点にも注意しておかなければなりません。
インスペクションを依頼するときの注意点
最後に、インスペクションを依頼するときの注意点を3つ紹介します。
ホームインスペクター(住宅診断士)は不動産屋さんに紹介してもらう
ホームインスペクター(住宅診断士)は自分で探すのではなく、不動産屋さんに紹介してもらうようにしてください。
メリットの部分で「インスペクションの実施によって住宅瑕疵担保保険を付与できる」と説明しましたが、これは「既存住宅状況調査技術者の資格者」かつ「住宅瑕疵担保責任保険法人の登録検査事業者」によるインスペクションに限られます。
自分で手配すると上記の要件を満たさないホームインスペクターを選んでしまう危険性もありますので、不動産屋さんに選定してもらうのがよいでしょう。
買主から依頼すると基本的に拒否しない
インスペクションは売主にとって費用がかかったり調査完了まで時間がかかったりとデメリットもあるため、「ホームインスペクションを拒否された」というケースも実際に起こっています。
しかし買主側にしてみれば、住宅の状態や施工品質に問題がないかを確認しておきたいのは自然な考えです。
また買主が購入後にインスペクションを行い、万が一売買契約書に記載されていない不具合が発見されれば、売主は「契約不適合責任」を負ってしまい修繕費を請求される可能性もあります。
よほどの理由がない限りは、インスペクション依頼は拒否しないようにしてください。
事前に売主と買主は合意書を締結する
インスペクションに応じるときは、事前に売主と買主との間でインスペクションに関する合意書を締結しておきましょう。
合意書には「調査結果を第三者に公開しないこと」「調査結果の写しを売主に提供すること」この2点を盛り込んでおくとよいでしょう。
これによりインスペクションの結果をSNSなどで拡散されるのを防ぐことができ、購入が見送られたときになにが原因で破談となったのかを把握できるようになります。
インスペクションを行い安心して売買!
本記事では、中古住宅売買に必要なインスペクションの基礎知識について紹介しました。
インスペクションを実施することは、売主・買主の双方にとってメリットが大きいといえるでしょう。
中古住宅売買は動く金額が大きい分トラブルも生まれやすくなっていますので、不動産会社と相談しながら慎重に進めていくことが大切です。